2008/07/05

上達の秘訣

Posted in ハープ日記 tagged @ 1:38 pm by Yuki

昨晩はバンドのギグがあった。うちのバンドのハーピストは、とても良いハープを吹く。その厚い(熱い)音色と、心の底から湧き出るような演奏は、巷では定評があるし、あのジョー・フィリスコ(Joe Filisko)のお墨付きでもある。夫であるというひいき目なしでも、すばらしいプレーヤーである。問題があるとしたら、謙虚すぎるところと、野心がなさすぎるところであろう。

彼はいつも良い演奏をするのだが、昨晩のギグはのりにのっていた。前半が終わった後の休憩時間に、自身もハーピストだと言う男がやって来て、色々と夫に質問をし始めた。私はパブが出してくれたブリー・チーズとクランベリー・ソースの美味なサンドウィッチをほおばりながら聞き耳を立てていたのだが、この男、どうも人の話を聞かない。色々と質問をしつつも、夫がそれに答えると、プライドが邪魔をして聞き流してしまうのである。例えば、アンプやマイクの話をしていて、「いい音してるけど、その音色は、アンプなの?マイクなの?」と聞く男。「アンプとマイクの組み合わせだよ」と答える夫。すると男は、「そんなの知ってるよ」と言ってしまうのである。「じゃあなぜ聞く?」と心の中でつっこみを入れる私。

その男は今年、グラストンベリー・フェスティバル(Glastonbury Festival)で演奏したことをものすごく誇りにしていて、「グラストンベリーで演奏したこの俺様が、こんな若造ごときにアドバイスされてたまるか」という思いがあるようである。確かにグラストンベリー・フェスティバルはイギリス最大のミュージック・フェスティバルなのだが、何しろ大規模なので、演奏するミュージシャンは、有名な人から無名な人までピンキリである。「グラストンベリーくらい私だって演奏したことあるよ」と思いながら、サンドウィッチを味わう私であった。

私は、男の態度から、「自慢する割には大したことないんだろうな」と思っていたのだが、休憩中に夫のハーモニカとアンプとマイクを試し吹きした彼の演奏は、案の定褒められたものではなかった。音色は硬くて薄っぺらで、ベンドも正しい場所を使わずにするので、耳障りな音色である。

後で私のところにやって来て、「君のとこのハーピスト、いい音してるね。あれはマイクを持つハンド・テクニックだね。しっかりと塞いで、ディストーションを起しているんだ」と言う男。どうも、夫の音色が良いのは、マイクやアンプなどの機材とハンド・テクニックのせいだと思っているらしい。そこで私は、「ハンド・テクニックももちろん大切だけど、もっと大切なのはマイクとアンプなしで吹く、生の音色だよ。アンプはその人の待っている音色を拡大するんだよ。良い音で吹けば良い音が出るし、悪い音で吹いたらそれが拡大されて鳴るだけだよ。興味があるんだったら、彼はレッスンもしているけど、、、」と言った。

最後の「レッスン」という言葉が気に入らなかったらしく、男は憤慨した様子で、「レッスン?まさか!俺はグラストンベリーで演奏したんだ!」と例のグラストンベリー話を持ち出すのであった(彼の口からは、もう20回くらいグラストンベリーという言葉を聞いている)。こういう人には、何を言っても無駄である。私は大人なので、「でもあなたは基礎がぜんぜんできてないよね」などということは言わずに、「ああ、そうですか」という感じで受け流したのであった。

音楽の上達のために必要なのは、「聞く耳」である。良いものと悪いものを聞き分ける耳と、上手い人のアドバイスを聞き入れる耳なしには、どこへもたどり着けない。