2008/11/03

音色へのこだわり

Posted in ハープ日記, 音色 @ 12:25 pm by Yuki

先日、トーン・ワークショップについて書いたので (>Tone Workshop)、今日ももう少し、トーン (=音色) について書いてみたいと思います。

ヨーロッパやアメリカで、ブルース・ハープの世界に深くはまっている人と話す時、必ずと言っていいほど耳にするのが、トーン (tone) という言葉です。「あいつはすごくいいトーンをしてる!」 とか、「どうやったらあんなトーンが出せるんだ!」 とか、「すげー、聞いた?あのトーン!」 とか、そんな感じ。ハーピストにとって、「良いトーンをしている」 というのは、最高の褒め言葉のひとつなのです。もちろん、肩を上げて、両手でハーモニカをぎゅーっと顔に押さえつけるように持って、前かがみになりながら、耳をつんざくような音で吹きまくるのがブルース・ハープだと思い込んでいる人もたくさんいます。しかし、良い演奏をしたいと熱心に研究している人ならば、必ず 「トーン」 という言葉をどこかで聞いたり読んだりして、自分のトーンを改善する練習をしているのです。

元はといえば、私がブルース・ハープにのめり込むことになった原因のひとつも、この音色に対するこだわりでした。私の本業は、クラシックとブルースを弾くピアニストなのですが、クラシックを弾く時とブルースを弾く時では、楽器や演奏に対するアプローチがかなり違うということを常々感じています。クラシックの場合は、針に糸を通すような神経の細かさで、一音一音の音色を練って行きますが、ブルースの場合は、ピアノという楽器の打楽器としての一面や、一音一音ではなく全体の雰囲気としてのトーンが重要になってきます。誤解のないように言っておくと、私は、ブルースがクラシックよりも簡単だと言いたいわけではありません。ブルースを弾くことはクラシックを弾くことと同じくらい、私にとって重要なことなのです。クラシックにはクラシックの、ブルースにはブルースの魅力があり、演奏において重要とされる部分が違っているだけのことです。そして、「音色」 ということだけに限って言えば、ブルースにおいては、クラシックに比べて、その幅の広さが限られているのは事実だと思います。言い換えれば、ブルースの演奏においては、ピアノという楽器が持つ多大な可能性と表現力の、ほんの一面しか使われていないということになります。

ジェームス・ブッカー (James Booker) のように、クラシックのテクニックと音色でブルースや R&B を弾いたピアニストもいますが、それはあくまで特殊な例です。それから最近は、ライブでは電子ピアノが使われることが多く、そのことも音色を限らせてしまう原因のひとつだと思います。とにかくそんな感じで、ブルース・ピアノを愛しつつも、私の中には音色が重視されないというフラストレーションが溜まっていったんですね。

そこで、ブルース・ハープなわけです。音色を聞いただけで、誰の演奏か言い当てられてしまうブルース・ハープ。たった一音のロング・トーンで、人の心を揺さぶることのできるブルース・ハープ。こういう音色が重視される楽器で、ブルースを演奏してみたい!と思ったのです。頭に描いた音が出なくて落ちこむことも多いのですが、常に音色に気を使って、一音一音、音をシェイプしていくブルース・ハープの練習は、私にとって、やりがいのある楽しい作業なのであります。