2009/01/17

Woodshedding

Posted in ハープ日記 tagged @ 12:06 pm by Yuki

先月の末から、ジャム・セッションに行っていません。ただひたすら、家で練習しております。前回行ったジャムで、納得の行く演奏ができなかったので、「こんなことではいかん!ジャムなんかに参加する前に、もっとやるべきことをやらなくては!」 と思ったのであります。この夜は、自分の腕の足りなさに腹が立って、悔しくて、帰り道でつい涙なんかこぼしてしまいました。昨晩も、ジャムに出かけていく夫を、家に残された犬のような目で見送り、一人練習に励んだのであります。

人前で演奏する際、どこで自分にゴー・サインを出すかというのは、その人によっても、演奏する状況によっても違うと思います。私の場合、聞くに堪える音色、しっかりとしたグリップで作り出すベンド音、タング・スラップによるリズム奏法、スロート・トレモロ、タング・トリル、オクターブ奏法などを使って演奏できるくらいの段階になるまで、最初のジャムに参加するゴー・サインが出せませんでした。「最低でもこれぐらいはできるようにならなければ、人前で演奏する意味はあまりないし、自分自身で納得がいかない」 という思いがあったのです (繰り返すようですが、これはあくまで私の場合です)。そして、なんとか念願のハープ・デビューを果たしたわけですが、そのゴー・サインを出すハードルは、上達するごとに高くなって行きます。練習を重ねて自分の演奏への要求が高くなってくるし、耳も肥えてくるので、以前と変わらぬレベルの演奏では自分で許せなくなってくるのです。

ブルースは人と作り上げていく音楽なので、ジャムなどで演奏するのはとても大切だと思います。家で一人で練習している時には見えない課題が、人前で演奏することや、他のミュージシャンと一緒に演奏することで浮き彫りになったりもします。でも、音楽には、自分自身と一対一で向かい合って、黙々と孤独に練習する期間も必ず必要だと思います。

woodshed2

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

ジャズ・プレイヤーが人前から姿を消して猛練習することを、”woodshedding” と表現します。“woodshed” とは 「まき小屋」 のことで、その名の通りまきを貯えておく小屋なのですが、ジャズ・プレイヤーにとっての 「まき小屋」 というのは一つの例えで、自宅の一室であったり、橋の上であったり、川原であったり、とにかく一人で黙々と練習できる場所のこと。そこで集中して一心不乱に練習して、ステージに戻って行くわけです。ソニー・ロリンズ (Sonny Rollins) がウィリアムズバーグ橋 (The Williamsburg Bridge) で練習した、というのは有名な話ですね。

“woodshedding” について書かれた、すごく素敵な記事があります。
Woodshedding & the Jazz Tradition

少しだけ紹介すると・・・

すばらしいソロ、難解なビーバップ、複雑なリズム・パターンは、根気強く取り組めば学ぶことができる。それは地味だけれど必要な雑用のようなものだ。火を起こす前に、まきを割るようにね。(The amazing solo, the intricate bebop melody, the complex rhythmic pattern, can be learned, if one is patient. It is a humbling but necessary chore, like chopping wood before you can start the fire.)

現在ではジャズは大学や高校で教えられ、熱心なミュージシャンは、多くの教材を手にしている。本、ビデオ、パソコンのソフトウェアにいたるまで、ジャズのアドリブを学ぶための資料はあふれている。21世紀になり、そのあり様は変わったのである。それでもなお、”woodshedding” というアイディアは変わっていない。ジャズの伝統の一部でありたいと願うミュージシャンなら誰でも、懸命に学んで経験を積まなくてはならない。斧を手に、まき小屋へ行き、火をともす前に、まきを割らなくてはいけないのだ。(Now that jazz is taught in universities and high schools, aspiring musicians have a multitude of resources for learning the art. There are a plethora of books, videos, even computer software for learning jazz improvisation. Woodshedding in the 21st century has taken on new forms. Still, the idea of woodshedding has not changed. Any musician who wants to be part of the jazz tradition has to pay his or her dues. You still have to take your axe in hand, go to the woodshed, and chop that wood before you can light the fire.)

「斧」 というのは、スラングで 「楽器」 という意味があります。”woodshedding” という言いまわしは、主にジャズ界で使われるのですが、これは他のジャンルにも当てはまるものだと思います。しばらく姿をくらましていたロバート・ジョンソン (Robert Johnson) が、戻って来て素晴らしい演奏で人々を驚かせたというのは有名な話です。トップ・プレイヤー達は皆、影でそういった努力をしているはずなのです。

私も現在は、斧を手に黙々とまき割り中です。進歩のない演奏で満足できるなら、人前で演奏するのは簡単です。でも、それでは自分で納得が行かないから、まきを割るのです。熱く、力強く、美しい火をともすことができることを祈りつつ。

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