2009/05/30

So I don’t have to be blowing so damned hard

Posted in テクニック, ハーモニカ・プレイヤー tagged , @ 3:48 pm by Yuki

最近、リトル・ウォルターのコピーを集中してやっています。私は常々、音をコピーする以上のことができた時に、本当に何かを身につけることができると思っています。これはどのプレイヤーをコピーする時にも言えることではありますが、リトル・ウォルターは特に強くそう感じます。多彩な音色、見事なフレージング、呼吸で作り出すリズムとグルーヴなどの微妙なニュアンスが満載で、そういうところをコピーしてこそ、得る物が多いプレイヤーだと思うのです。特にあの軽やかさ。ハーモニカは強く吹くものではないのだということを証明するかのような演奏です。私は、多くのプレイヤーは強く吹きすぎると思います。音を身体に共鳴させることではなくて、強く吹くことで出そうとする。私も気をつけてはいますが例外ではなくて、パンチの利いた音や音量を出したいと思う時に、強く吹きすぎてしまったりということがあります。でもパンチの利いた音や音量というのは、ここがよく誤解されるところだと思うのですが、本当は力で出すものではないんですよね。

そんなことを考えていたら、偶然にも、私がよく行くハーモニカのコミュニティ・サイトの掲示板でこのことが最近話題になっていて、そこでバーベキュー・ボブ (Barbeque Bob Maglinte) というプレイヤーが素晴らしい書き込みをしていました。バーベキュー・ボブさんは、サニーランド・スリムやジミー・ロジャースなどとの共演の経験も持つプレイヤーで、アメリカはマサチューセッツを中心に活躍しています。私がハープ関係の掲示板やメーリングリストに目を通す時、「この人の書くことは勉強になることが多いから、いつも欠かさずに読む」 という人が何人かいて、ボブさんもその一人です。彼のしっかりとした知識と豊かな経験に基づく公正な意見からは学ぶことが多く、彼の書き込みにお世話になっている人は私だけではないはずです。他にも何人かバーベキュー・ボブという名前のミュージシャンがいるので、どうぞお間違えのないように。ボブさんの音楽はこちらで聞くことができます。文句なしにかっこいいっす。
Barbeque Bob And The Rhythm Aces

Barbeque_Bob

今回のボブさんの書き込みの内容も全体にためになることばかりだったのですが、長いので特に印象に残った一部を紹介します。

ほとんどのプレイヤーは、自分のブレス・コントロールに対しての見極めが不十分なんだ。そしてほとんどの人は、自分が強く吹きすぎているかもしれないなんて、夢にも思わないだろう。

多くのプレイヤーはアンプリファイドの演奏をする時に、強く吹けば彼らのハープ・ヒーロー達に近い音が出ると勘違いして一層強く吹く傾向があるけれど、それは僕はとても皮肉なことだと思う。本当のことを言うと、強く吹くことは彼らの演奏の質を下げるだけなんだ。雑誌 “Living Blues” の初期の号には、亡くなる数ヶ月前に行われたリトル・ウォルターのインタビューが載っている。その中で、「どうしてあなたはアンプリファイドの演奏の方を好むのですか?」 という質問に対して、リトル・ウォルターはこう答えているよ。「その方が、強く吹かなくて済むからさ (so I don’t have to be blowing so damned hard)」 ってね。それにもかかわらず、大半のプレイヤーはその正反対の道を進んでいるんだ。

身体をリラックスさせて演奏することを身につけたら、空気の通り道が開いて、空気は全く妨げられることなしに流れる。そうすると、より響き渡った音で演奏できるようになるし、空気をより有効に使うことによって、少しの力で音量を出すことさえできるようになるんだ。リードにかかる圧力も80%少なくなるから、ハーモニカの故障もなくなるよ。

大きな音、ブルージーな音、マッチョな音、ダーティーな音、ソウルフルな音を出すことと、強く吹くこととは別物だということをしっかりと肝に銘じて (気をつけていないと忘れそうになるので。)、練習に励む今日この頃であります。

2009/05/25

Dennis Gruenling & Annie Raines

Posted in ハーモニカ・プレイヤー tagged , @ 7:41 pm by Yuki

デニス・グルンリングとアニー・レインズによるデュエット。アニーの演奏は好きな時とあまりそうでもない時があるのですが、この演奏はデニスとの掛け合いがすごく良いです。ハーモニカのデュオって、お互いの邪魔にならないように演奏するのが難しいと思います。両者の音がかぶると、騒々しく聞こえたりまとまりがなく聞こえるたりすることが多いと思うのですが、この二人はその辺をうまくクリアしていますね。ジョージ・スミス (George “Harmonica” Smith) のアルバム、”Now You Can Talk About Me” の中で、ジョージとロッド・ピアッツァ (Rod Piazza) が共演した “Astatic Stomp” という曲がありますが、それを彷彿させる演奏であります。

Dennis Gruenling and Annie Raines Swing It

dennis_gs annie_raines

デニスはジャンプ・ブルースを演奏する時と、こういう比較的トラディショナルな曲を演奏する時とで、その演奏へのアプローチを変えていることが明らかですね。こうやってビデオで見てもまあかっこいいですが、ライブで見るこの人の迫力はものすごいです。機会のある方はぜひぜひお見逃しなく。

2009/05/19

Jason Ricci インタビュー その1

Posted in ハーモニカ・プレイヤー tagged @ 5:00 pm by Yuki

ジェイソン・リッチのインタビューです。
Blues Moose radio Interview Jason Ricci Ospel (NL) Moulin blues 2 may 2009

なかなか良いインタビューで、全体に興味深い話が続くのですが、一部抜粋します。

jason_phrs-2

「ジェイソン・リッチはジェイソン・リッチ以外の何者でもないわけだけれど、自分が他のハーモニカ・プレイヤーと違うのはどんなところだと思う?」 に対しての答え。

よくわからないけど、僕はただ音楽を演奏したいだけで、それがブルースであるかどうかということにはあまり感心がないってことじゃないかな。たぶん、ちょっとポール・バタフィールドみたいな感じかもしれない。それから僕は、ハーモニカ・プレイヤーというより、ギター・プレイヤーみたいに演奏するんだ。

「自分の演奏する音楽はブルースだと思う?」 の問いに対しての答え。

わからないな。ブルースはもちろん演奏するよ。でもこれは難しい問題だよね。トラディショナル・ブルースというものが、現在で言うところのトラディショナル・ブルース (リトル・ウォルターやビッグウォルターなどのことですね。) だと考える人も多いけれど、そういう人達が50年代に生きていたとしたら、50年代のブルースをトラディショナルだとは思わなかっただろうね。つまり、現在リトル・ウォルターそっくりにハーモニカが吹きたいと思っている連中がリトル・ウォルターの時代に生きていたとしたら、彼らはリトル・ウォルターの音楽なんて大嫌いだっただろうってことだよ。だから、僕の音楽を何と呼ぶかというのは、みんなが好きに決めたらいいさ。ブルースに影響を受けている音楽だと呼べることは確かだろう。でも僕の演奏する曲には、絶対に、100パーセントの確率でブルースではない曲もあるけどね。

「何がブルースで何がブルースでないかと決め付ける人はたくさんいるけれど・・・」 ということについての答え。

そんなのはばかばかしいことだよ。マディ・ウォーターズだってジェームス・コットンだって、ブルースがこうあるべきだなんて考えは持ってなかったんだ。ビッグ・ウォルターなんてラ・クカラーチャを演奏してたんだぜ。彼らはみんな音楽に対して偏見がなかったし、新しいものを取り入れる広い心を持っていたんだ。

僕はインターネットを通して若いプレイヤー達と話すことが多いけれど、若い人達や子供達は、新しいものに対してすごくオープンなんだ。僕は新しい時代のほんの始まりであって、これから僕みたいな演奏をする人達がどんどん増えてくると思うよ。移り変わりなのさ。音楽は変わらなくてはいけないんだ。変わらなくては、そこで終わってしまうから。

最後に、「これはいつもみんなに聞くことなんだけど、ブルースを演奏するのにはコットンを摘まなくちゃいけない思う?」 の問いに対しては、

いや、そうは思わないよ。でも僕は悪魔に魂を売らなきゃいけなかったけどね。

と、お茶目なジョークで締めくくっておりました。ゲイの人ってチャーミングな人が多いですね。

これは他のところで読んだのですが、ジェイソンの音楽を聞いて、「こんなのはブルースじゃない」 と言う人も多いみたいですね。でも、ここで彼が語っているように、何がブルースで何がブルースでないかというのは、そんなに簡単に定義できることではないのだと思います。リトル・ウォルターだって、今でこそトラディショナルとされていますけど、ジャンプ・ブルースのテイストを取り入れたり、ロカビリーのような音楽を作り上げたり、それまでのブルースとは程遠い、斬新なプレイヤーだったわけですから。ジェイソンの人となりが表れた、良いインタビューだと思います。

2009/05/14

一本勝負!

Posted in ハープ日記 tagged @ 1:37 pm by Yuki

私は、どのキーの曲を演奏するにでも、C調のハープを使います。全てのキーを、ポジションを変えてCハープで吹くわけです。なぜそんな面倒なことをわざわざするのかという理由はきちんとあって、このブログでもずっと書こうと思いつつ、理解してもらえるように説明するのが骨だったのと、またちょっとしたコンプレックスのようなものもあり、今日まで書かずに来てしまいました。でも今日は、がんばって書いてみたいと思います。まあ身の上話のようなものでもあるので、お暇な方だけお読み下さい。

私には、絶対音感というものがあります。一時期、「絶対音感」 という本が話題になったのでご存じの方も多いかと思いますが、絶対音感とは、「基準となる他の音の助けを借りずに音の高さ (音高) を音名で把握することのできる感覚 (Wikipedia より引用)」 のことをいいます。つまり、音を聞いた際に、それが頭の中で音の名前となって聞こえる感覚です。C の音が鳴っているのを聞くと、本人が望む望まないに関わらず、頭の中では 「ドー」 と鳴って聞こえるのです。

聴音や耳コピ、暗譜をする時などにはとても役立つ絶対音感ですが、ブルース・ハーモニカを吹くにあたっては、これが障害となってしまいます。絶対音感を持つ人が移調楽器の演奏に困難を感じるというのはよくあることで、サックス・プレイヤーなんかでも、アルト (Eb) を吹く人がテナー (Bb) への持ち換えができないというようなことがあるようです。ハーモニカはもっとひどくて、12のキーがあるわけですから、絶対音感を持つ者にとてつもない混乱をもたらすこととなります。ちなみに私は、電子ピアノやキーボードによくついている 「移調ボタン」 も使えません。聞こえる音と弾いている鍵盤が違うので、混乱してしまうのです (尤も、ピアニストは移調ボタンなどに頼るべきではないと常々思っているので、これは大した問題ではないのですが)。もちろん、全ての絶対音感を持つ人がこのような困難を覚えるわけではなくて、相対音感や移動ド唱法が身についていれば、絶対音感があっても移調楽器をこなせるようです。

さて、それで肝心のハーモニカの話ですが、私はハーモニカの持ち替えが全くできません。ハーモニカは、同じ身体の使い方で同じ穴を吹いているのに、使うハープのキーによって違う音が出ますよね。まあ当たり前のことなのですが、これが私の頭と身体を混乱させ、演奏を不可能にするわけです。私が慣れ親しんでいるのはC調ハープで、このハープの全ての音と音名が、音を出す時の身体の動作と一体となって、私の頭の中にインプットされています。例えば、「3穴を、身体のこの場所を使ってこれくらいベンドすればBbの音がする」 というように、私の身体はプログラムされているのです。それで、例えばAのハープに持ち替ええたとしても、身体が勝手にBbの音を出そうとして、3穴をベンドしてしまったりするんですね。でももちろん、ハープのキーが違うから、Bbの音など出ない。それで、頭も身体もわけがわからなくなってしまうのです。3穴ベンドはあくまでひとつの例であって、全ての音がこのような感じで混乱をもたらすこととなります。

この大変さは絶対音感を持たない人には理解されにくくて、私が 「ハーモニカの持ち替えができない」 と言うと、多く場合、「へ?何言ってんの?」 という反応が返ってきます。実際に持ち替えて吹いて見せると、「なるほど、こりゃあひどい演奏だ。どうやら持ち換えができないというのは本当らしい。」 と納得はしてもらえるようですが、なぜハーモニカを持ち換えるとひどい演奏になるかということはなかなか理解できないようです。これは実際に経験することなしにはわかってもらえることではないのだと思います。

それで皆さん、「音名を考えないようにしろ」 とか、「相対音感を使うんだ」 とか、「音名ではなくてインターバル (音程) で音楽を捉えるといい」 などアドバイスを下さるわけですが、それができたら苦労はしないというか、そんなことはどんなにがんばってもできないのです。絶対音感を持ってしまった者にとって、音というのは言葉のようなものです。「ラ」 と聞こえるものを 「ド」 と聞くようにしろと言われることは、「りんご」 という言葉を聞いて、「みかん」 と聞こえるようにしろと言われているようなものなのです。実際に、音を聞いている時の絶対音感を持つ人の脳を見ると、絶対音感を持たない人が使わない脳の場所が使われていて、それは言葉を操る時に使われるのと同じ場所なのだそうです。

できる曲の調が限られているというのは、家でひとりで吹いている分にはかまいませんが、私はやはりジャムで他の人達と一緒に演奏したかったんですね。それにはやはり、どのキーにも適応できなければなりません。それで、なんとかこの障害を乗り越えようと、違うキーのハーモニカをとっかえひっかえ練習した時期が2年ほどありました。練習を重ねたら、なんとか慣れるのではないかと思ったのです。でもどうしてもだめで、これは時間の無駄だという結論に至りました。ハープを持ち替えるだけで簡単に移調ができてしまうのがブルース・ハープの利点ですが、それが裏目に出てしまうというのは、何とも皮肉なことです。

ジャムから帰ってくるたびに、自分の技量のなさに落ちこんで、「もうハーモニカやめる」 と言う私を、「せっかくここまで上手くなったのに、やめるなんて絶対にもったいない!」 と励ましてくれた夫には感謝しています。そんな悶々とした日々が続いたある時、夫が提案したのが、「Cハープ一本だけで、全ての調を吹いたらいいんじゃないか」 ということだったわけです。「有名なところではハワード・リーヴィーなんかがやってるし、他にもC一本でやっている人が何人かいる」 と言うのです。これはいけるかも、と私は思いました。私がハープを持ち替えると吹けなくなるのは、「どこにどの音があって、どのように身体を使ったらどの音が出る」 ということがわからなくなって混乱してしまうからであります。音名と身体の動きが一致する慣れたハープならば、ポジションの移動は楽にできるのです。そのポジションがちょっと増えたくらいと思えば、これはハープを持ち替えるよりもずっと楽な解決法かもしれないと思ったのです。

それから約2ヶ月間、ジャムに行かずに、ひたすら家で、Cハープのみを使って様々なポジションの練習をしました (以前 Woodshedding という記事を書いたことがありますが、あの頃です)。毎日、スケールの練習だけで2時間。プラス、バッキング・トラックを使って様々なキーの曲を練習しました。テクニック的にはやはり難しかったですが、各スケールや和音の構成音は本業がピアノ弾きということもあってがっちりと頭に入っているので、そういう面 (どのポジションのどのコードにどの音が合うかということ) においてはそれほど大変だとは感じませんでした。そして、「これが私にとって一番自然な方法だ」 と徐々に確信して行ったのです。

もちろん、一本のハープしか使わない演奏というのは、いささか問題もあります。各ポジションにはそれぞれのキャラクターがありますが、曲の雰囲気によってではなくて、曲のキーによってポジションを選ばざるを得ないというのが一番辛いです。更に、スタンダード・ナンバーを演る時に、定番のリフができないこともあるということです。これはもう、適当に曲に合うように作り上げるしかありません。それから、演奏がワンパターンになりがちだと思うのですが、これは夫によると、「普通の (ハープの持ち替えができる) プレイヤーだって毎回同じようなことばっかり繰り返すのがほとんどなのだから、そんなのは気にすることではない。」 とのことでした。確かにブルース・ハープの演奏って、ハープの持ち替えができるできないに関わらず、決まったパターンから抜け出すのが難しいですよね。そして、志の高いプレイヤーは常に、パターン化からの脱出を目指して自分を駆り立てているのだと思います。私も私なりのやり方で、ワンパターンにならない演奏を目指していけば良いのだと、少し気が楽になりました。

現在でも、曲のキーと雰囲気によってはあまり上手く行かないことも多くて、そういう時は、「ハーモニカの持ち替えさえできたら・・・」 とブルーになってしまいます。でも、そんなことを言っても始まらないし、「私にしかできないスタイルを築き上げることができるかもしれないじゃないか」 という気持ちで、前向きに取り組んでおります。当面の目標は、ダーティー・ノートや表情を持たせたベンド・ノートなどのブルージーな音を、各ポジションで有効に使うことにあります。

2009/05/11

Joe Filisko & Eric Noden

Posted in ハーモニカ・プレイヤー tagged @ 12:52 pm by Yuki

ここ数日、カスタム・ハーモニカの話が続いたからというわけではないのですが、今日はジョー・フィリスコ (Joe Filisko) 氏の演奏を紹介します。ちょっと前にダーティ (dirty) なアンプリファイドの演奏を紹介しましたが、今日は打って変わって、エリック・ノーデン (Eric Noden) とのアコースティック・デュオです。こういう演奏をしたら、彼の右に出る人はいないと思います。聞いていると、何とも幸せな気持ちになってしまう。トレイン・リズムってブルースハープの基礎のひとつですけど、本当に上手く吹くのは実はとても難しいんですよね。ジョーはとてつもないテクニックを持つ人ですが、彼のハープは、音楽として奏でられた時に、あまりそういうことを感じさせない力があると思います。なんというか、ただただ、「ハーモニカっていいなあ。音楽っていいなあ。」 と思うのです。

Strobe Sessions #7: Joe Filisko & Eric Noden

joe_filisko_l

過去に紹介したジョーの演奏はこちらにあります。

Joe Filisko (アンプリファイド)
Joe Filisko

2009/05/07

Joe Spiers Custom Harmonica - その2 ・ カスタム・ハーモニカというもの

Posted in ハーモニカ tagged , , , @ 11:29 pm by Yuki

前回からもう少し話を広げて、カスタム・ハーモニカというものについて書いてみたいと思います。先日の記事を読んでいない方は、こちらからどうぞ。
Joe Spiers Custom Harmonica - その1

なぜカスタム・ハーモニカというものが存在するのかという疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。そもそも、最近のストック・ハープ (手直しされていない、店で普通に買うハープ) は、多かれ少なかれ、どこかに欠陥があるのが普通なんですね。例えば、私が馴染みのあるストック・ハープはマリンバンド・デラックスですが、買って箱から出したばかりなのに、チューニングが狂っていたりとか、すかすかして感度の悪いホールがあったりとか、キーキー鳴るリードがあったりとか、何かと欠陥があるのが普通です。以前、スティーヴ・ベイカーと話した際に、ホーナーの製品の質は一時期は低迷したが、最近はまた質が上がってきて、現在は60年代以来の質の良さだと言っていました。確かに最近のデラックスは、「おっ」 というくらい素晴らしいものもありますが、それでも全ての穴がバランスがとれて良く鳴るストック・ハープに当たるのは、かなりラッキーなことだと思います。マリンバンドのニューモデルについての記事でも書いた通り (>Marine Band Crossover)、スティーヴ・ベイカーは、ホーナーの製品開発に深く関わっている人で、彼自身、素晴らしいプレイヤーでもあります。自分はストック・ハープで十分で、カスタム・ハープは必要ないと言っているスティーヴですが、そんな彼でも、自分の演奏に合わせてリードを調整したり、チューニングをしたりという作業は自身で行っているそうです。

ということを踏まえて湧いてくるのが、「それではなぜ、工場での品質管理をもっと厳重にして、欠陥のないハーモニカを作らないんだ!」 という疑問です。これは、「ブルース・ハープは低価格の楽器である」 という前提があるためです。消費者が納得する安い値段で、一枚一枚のリードの並びやカーブの具合、リードとリードプレートの隙間などをチェックして調整するのは、到底無理な話なのです。そういうわけで、全てのリードがしっかりと調整されたハーモニカが欲しいと思えば、自分で手直しするか、それなりのお金を払って職人にその仕事をしてもらうしかないわけです。

しかし、カスタマイズと一言で言ってもその仕事の度合いは様々で、腕の良いカスタマイザーの仕事は、修理をしたり調整したりする以上のものであります。彼らの目指すところは、可能な限りエアタイト (高い気密性) に加工して感度を最大限に高め、可能な限りダイナミックス (音量の強弱の幅) を広げ、奏者の希望によってはオーバー・ブロウ / ドローがスムーズにできるセッティングも行うなど、言わば 「スーパー・ハープ」 なのです。しかし、いくらスーパー・ハープ (というのは私が勝手に名付けたのですが。) とは言えど、テクニックが無ければもちろん使いこなすことはできません。でも、プロのプレイヤーやプロ並の演奏を目指す人にとっては、無駄な労力を使ったり、楽器に心を煩わされることなしに、自分の目指す音楽を作り出すことのみに集中できる、ありがたい楽器なのであります。

このスーパー・ハープの開拓者が、このブログでも良く登場するジョー・フィリスコ氏なわけですが、彼は始めは、「戦前の物にできるだけ近い、良質のハーモニカを作ろう」 ということで、カスタム・ワークを始めたらしいです。リトル・ウォルターやビッグ・ウォルターなどの、古き良きブルースの時代のハーモニカは今とは比べ物にならないくらい良質だったそうですが、それ以前の戦前のものはもっと質が良かったそうですね。現代のカスタム・ハーモニカはもともとそういう目的から始まったのですが、それがどんどん進化して、現在のスーパー・ハープに至るわけです。

私が始めて吹いたトップ・クラスのカスタム・ハープは、数年前に夫が買ったブラッド・ハリソンのハープでした。この時の衝撃は、未だにはっきりと覚えています。吹いた瞬間、「詐欺だ!」 と思いました。驚くほどエアタイトで、ベンドなんかもするするっと抵抗なくできてしまう。それまで吹いてきたストック・ハープとは全然違うので、同じハーモニカという楽器だとは信じられませんでした。それで、「キム・ウィルソンもデニス・グルンリングも、ゲイリー・プリミチも、ジェリー・ポートノイも、リック・エストリンも、みんなこんなハープ使ってるの?そりゃー上手いはずだよ!詐欺だ!」 と叫んだわけです (実際には、彼らのハープを作っているのは、ハリソンではなくてジョー・フィリスコやリチャード・スレイなのですが、同じトップクラスのカスタム・ハーモニカということで)。まあこれはもちろん冗談で言ったのですが、それほどの衝撃だったということです。

今回私が買ったジョー・スパイアーズのハープは、ハリソンのに比べて、ほんの少し抵抗が強いです。これは感度が悪いという意味ではなくて、例えば車でいうと、ハリソンのはちょっとアクセルを踏んだだけで 「ぎゅん」 と進みますが、スパイアーズのは少し踏み込んで 「ぐわん」 と前に行く感じ。どちらも素晴らしい性能の車であります。夫が愛用しているリチャード・スレイのハープは、どちらかというとハリソンのに近いですが、ちょっと落ち着いた感じがします。もうこれは、吹く人の好みでしかないですね。

先日も書いた通り、時間のかかる作業なので、トップ・カスタマイザー達は随時注文を受け付けているわけではないことが多いです。一定期間内で仕上げられる量の注文だけ受け付けて、その目途がつくまでは次の注文は受け付けないという人が多いようです。それでも、その間、以前に作ったハーモニカのリペアやチューニングなどの依頼が入ったりもするので、なかなか予定通りには行かないみたいですね。夫がスレイのハーモニカ4本を買った際は、仕上がりまでに6ヶ月程かかると言われていたのですが、延びに延びて、結局9ヶ月くらいかかりました。最近ハリソンのハープを買った友人も、当初の予定より2ヶ月ほど長くかかったと言っていました。

そんなわけで、カスタマイズは手作業のため時間がかかりますし、高度なスキルと経験が必要です。そして完成したハープの出来栄えは素晴らしいものなので、高い値段がつくわけです。スパイアーズのハープはハープのモデルやカスタマイズの度合いによって値段は違いますが、私が今回買ったのは、送料込みで305ドル (約29600円) のもの。他のトップ・カスタマイザー達も色々ですが、150ドル (約14700円) から 180ドル (約17600円) くらいが相場のようです。確かにストック・ハープに比べると高いですが、受け取った時点で製品に明らかな問題があれば無料で調整してくれるはずですし (私が買ったスパイアーズのハープは2年間の保証が付いています。)、その後も有料ですが修理や調整やチューニングをしてもらえるので、買い換えの必要はないのです。欠陥があることが普通のストック・ハープと違って、カスタム・ハープはその品質を信頼することができるので、少々高いお金を出してもカスタム・ハープを選ぶという人がこちら (欧米) では多いです。
もちろん、ストック・ハープを使っているプロもいますが、そういう人でも前述のスティーヴ・ベイカーのように自分で手直ししているか、又は欠陥の少ないものを選ぶなどしている場合がほとんどだと思います。

うちの夫も、以前から自分のハープの調整をしていたのですが、最近カスタマイザーとしての仕事を本格的にはじめて、これがなかなかの好評であります。先日も、スレイのハープを愛用している友人から、「アメリカのクラフツマンに負けないくらいの良い仕事だ」 と言われていました。現在は集まった注文をこなすのに手一杯な様ですが、時間ができたらウェブサイトも作る予定だそうなので、その際はこちらで紹介したいと思います。