2009/05/07

Joe Spiers Custom Harmonica - その2 ・ カスタム・ハーモニカというもの

Posted in ハーモニカ tagged , , , @ 11:29 pm by Yuki

前回からもう少し話を広げて、カスタム・ハーモニカというものについて書いてみたいと思います。先日の記事を読んでいない方は、こちらからどうぞ。
Joe Spiers Custom Harmonica - その1

なぜカスタム・ハーモニカというものが存在するのかという疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。そもそも、最近のストック・ハープ (手直しされていない、店で普通に買うハープ) は、多かれ少なかれ、どこかに欠陥があるのが普通なんですね。例えば、私が馴染みのあるストック・ハープはマリンバンド・デラックスですが、買って箱から出したばかりなのに、チューニングが狂っていたりとか、すかすかして感度の悪いホールがあったりとか、キーキー鳴るリードがあったりとか、何かと欠陥があるのが普通です。以前、スティーヴ・ベイカーと話した際に、ホーナーの製品の質は一時期は低迷したが、最近はまた質が上がってきて、現在は60年代以来の質の良さだと言っていました。確かに最近のデラックスは、「おっ」 というくらい素晴らしいものもありますが、それでも全ての穴がバランスがとれて良く鳴るストック・ハープに当たるのは、かなりラッキーなことだと思います。マリンバンドのニューモデルについての記事でも書いた通り (>Marine Band Crossover)、スティーヴ・ベイカーは、ホーナーの製品開発に深く関わっている人で、彼自身、素晴らしいプレイヤーでもあります。自分はストック・ハープで十分で、カスタム・ハープは必要ないと言っているスティーヴですが、そんな彼でも、自分の演奏に合わせてリードを調整したり、チューニングをしたりという作業は自身で行っているそうです。

ということを踏まえて湧いてくるのが、「それではなぜ、工場での品質管理をもっと厳重にして、欠陥のないハーモニカを作らないんだ!」 という疑問です。これは、「ブルース・ハープは低価格の楽器である」 という前提があるためです。消費者が納得する安い値段で、一枚一枚のリードの並びやカーブの具合、リードとリードプレートの隙間などをチェックして調整するのは、到底無理な話なのです。そういうわけで、全てのリードがしっかりと調整されたハーモニカが欲しいと思えば、自分で手直しするか、それなりのお金を払って職人にその仕事をしてもらうしかないわけです。

しかし、カスタマイズと一言で言ってもその仕事の度合いは様々で、腕の良いカスタマイザーの仕事は、修理をしたり調整したりする以上のものであります。彼らの目指すところは、可能な限りエアタイト (高い気密性) に加工して感度を最大限に高め、可能な限りダイナミックス (音量の強弱の幅) を広げ、奏者の希望によってはオーバー・ブロウ / ドローがスムーズにできるセッティングも行うなど、言わば 「スーパー・ハープ」 なのです。しかし、いくらスーパー・ハープ (というのは私が勝手に名付けたのですが。) とは言えど、テクニックが無ければもちろん使いこなすことはできません。でも、プロのプレイヤーやプロ並の演奏を目指す人にとっては、無駄な労力を使ったり、楽器に心を煩わされることなしに、自分の目指す音楽を作り出すことのみに集中できる、ありがたい楽器なのであります。

このスーパー・ハープの開拓者が、このブログでも良く登場するジョー・フィリスコ氏なわけですが、彼は始めは、「戦前の物にできるだけ近い、良質のハーモニカを作ろう」 ということで、カスタム・ワークを始めたらしいです。リトル・ウォルターやビッグ・ウォルターなどの、古き良きブルースの時代のハーモニカは今とは比べ物にならないくらい良質だったそうですが、それ以前の戦前のものはもっと質が良かったそうですね。現代のカスタム・ハーモニカはもともとそういう目的から始まったのですが、それがどんどん進化して、現在のスーパー・ハープに至るわけです。

私が始めて吹いたトップ・クラスのカスタム・ハープは、数年前に夫が買ったブラッド・ハリソンのハープでした。この時の衝撃は、未だにはっきりと覚えています。吹いた瞬間、「詐欺だ!」 と思いました。驚くほどエアタイトで、ベンドなんかもするするっと抵抗なくできてしまう。それまで吹いてきたストック・ハープとは全然違うので、同じハーモニカという楽器だとは信じられませんでした。それで、「キム・ウィルソンもデニス・グルンリングも、ゲイリー・プリミチも、ジェリー・ポートノイも、リック・エストリンも、みんなこんなハープ使ってるの?そりゃー上手いはずだよ!詐欺だ!」 と叫んだわけです (実際には、彼らのハープを作っているのは、ハリソンではなくてジョー・フィリスコやリチャード・スレイなのですが、同じトップクラスのカスタム・ハーモニカということで)。まあこれはもちろん冗談で言ったのですが、それほどの衝撃だったということです。

今回私が買ったジョー・スパイアーズのハープは、ハリソンのに比べて、ほんの少し抵抗が強いです。これは感度が悪いという意味ではなくて、例えば車でいうと、ハリソンのはちょっとアクセルを踏んだだけで 「ぎゅん」 と進みますが、スパイアーズのは少し踏み込んで 「ぐわん」 と前に行く感じ。どちらも素晴らしい性能の車であります。夫が愛用しているリチャード・スレイのハープは、どちらかというとハリソンのに近いですが、ちょっと落ち着いた感じがします。もうこれは、吹く人の好みでしかないですね。

先日も書いた通り、時間のかかる作業なので、トップ・カスタマイザー達は随時注文を受け付けているわけではないことが多いです。一定期間内で仕上げられる量の注文だけ受け付けて、その目途がつくまでは次の注文は受け付けないという人が多いようです。それでも、その間、以前に作ったハーモニカのリペアやチューニングなどの依頼が入ったりもするので、なかなか予定通りには行かないみたいですね。夫がスレイのハーモニカ4本を買った際は、仕上がりまでに6ヶ月程かかると言われていたのですが、延びに延びて、結局9ヶ月くらいかかりました。最近ハリソンのハープを買った友人も、当初の予定より2ヶ月ほど長くかかったと言っていました。

そんなわけで、カスタマイズは手作業のため時間がかかりますし、高度なスキルと経験が必要です。そして完成したハープの出来栄えは素晴らしいものなので、高い値段がつくわけです。スパイアーズのハープはハープのモデルやカスタマイズの度合いによって値段は違いますが、私が今回買ったのは、送料込みで305ドル (約29600円) のもの。他のトップ・カスタマイザー達も色々ですが、150ドル (約14700円) から 180ドル (約17600円) くらいが相場のようです。確かにストック・ハープに比べると高いですが、受け取った時点で製品に明らかな問題があれば無料で調整してくれるはずですし (私が買ったスパイアーズのハープは2年間の保証が付いています。)、その後も有料ですが修理や調整やチューニングをしてもらえるので、買い換えの必要はないのです。欠陥があることが普通のストック・ハープと違って、カスタム・ハープはその品質を信頼することができるので、少々高いお金を出してもカスタム・ハープを選ぶという人がこちら (欧米) では多いです。
もちろん、ストック・ハープを使っているプロもいますが、そういう人でも前述のスティーヴ・ベイカーのように自分で手直ししているか、又は欠陥の少ないものを選ぶなどしている場合がほとんどだと思います。

うちの夫も、以前から自分のハープの調整をしていたのですが、最近カスタマイザーとしての仕事を本格的にはじめて、これがなかなかの好評であります。先日も、スレイのハープを愛用している友人から、「アメリカのクラフツマンに負けないくらいの良い仕事だ」 と言われていました。現在は集まった注文をこなすのに手一杯な様ですが、時間ができたらウェブサイトも作る予定だそうなので、その際はこちらで紹介したいと思います。

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8件のコメント »

  1. 竹江 said,

    私は普通のオールドスタンバイ(木製)を使ってます。
    マリンバンドと比べるとスカスカ感が強いようです。
    Gの1stポジションで吹くと気持ちいいですよ。

    こんな音です↓
    http://www5f.biglobe.ne.jp/~y-takee/ongen/sonny_boy2.WAV/

    • Yuki said,

      >竹江さん

      Trust My Baby ですね。かっこいいです。ストック・ハープでも、もちろんよい演奏はできますよね。こちら (欧米) のフォーラムでは、「カスタム・ハープ vs. ストック・ハープ」 みたいな話題がよく上っています。私も実は、数年前までは 「なんでカスタム・ハープなんてものが必要なんだ」 と思っていたのですが、往年のハーピスト達が使っていたストック・ハープは現在のものよりも数段質が良かったという事実を知ったことと、実際に吹いてみたことが理由で、カスタム・ハープの価値を認識しつつあります。私に限らず、カスタム・ハープは、吹いてみてその存在理由と価値がわかったという人が多いようですね。以前、ジェイソン・リッチがストック・ハープとカスタム・ハープの吹き比べをした映像を紹介したことがあるので、よかったらそちらもご覧下さい。
      https://blowharp.wordpress.com/2008/09/09/%E3%82%AB%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%82%AB/

      私は個人的には、スカスカしたハープは良い練習になるけれど、実際に演奏する際はきっちりエアタイトなハープがいいなあと感じます。それで、airy な (空気の混じった) 音を出したい時は、キム・ウィルソンなんかがたまにやっている感じで、空気を含ませる奏法で演奏するのが理想です。相性があるので、やはりハープ選びは、色々と自分で試して、これだと思うものを選んでいくしかないのでしょうね。

      • ジェイソン・リッチさんのビデオクリップ見て思ったのですが、
        私は彼みたいなテクニシャンではないので、
        普通のハーモニカの方が私には合ってる気がしました。
        所詮わたしはアマチュアですから・・(笑)

      • Yuki said,

        >竹江さん

        おっしゃる通り、ジェイソンは独特のスタイルを持ったテクニシャンですが、かなりトラディショナルな演奏をするジェリー・ポートノイなんかもカスタム・ハープを使っています。私も思いっきりアマチュアですが、ダイレクトに反応してくれるカスタム・ハープを使うと、ハープを吹くという行為が数倍楽しく感じられますし、楽器にインスパイアされることも多いです。

        「欧米ではカスタム・ハープというものが普及していて、ハーモニカを選ぶ時はこういう可能性もあるよ」 という情報を発信したかっただけで、何が何でもカスタム・ハープが最高だと言いたかったわけではないんです。本文にも書いた通り、ストック・ハープを使っているプロは多くいますし、それで素晴らしい演奏ができるのも事実だと思います。載せていただいた Trust My Baby なんていい音していますものね。ということで、私としては、ストック・ハープが一番だと言う意見があったとしても、尤もだと思います。でもできれば、可能性を頭から閉ざしてしまう前に、いろいろ試してから決めて行きたいですよね。この記事を書いた意図はそういうところにあります。

  2. msakai said,

    こんにちは。
    「詐欺だ!」なんて思わせるほど違うカスタムハープってどんなに違うのか一回吹いてみたい感じですね。でもどちょっと高くて無理だなあ。。私は最近もっぱらマリンバンドのストックですが、当たり外れってあまりわからないですね。「塗り無し」との違いもあまりわかりませんが、日々基礎練に励んでおります。

    • Yuki said,

      >masakiさん

      お久しぶりです!調子はいかがですか?私はこのところひどい花粉症で、なかなか練習がはかどりません。。。

      確かに、ストック・ハープに比べるとかなり高価ですよね。音楽が一番の趣味で (というか、本業でもあるのですが。)、それ以外の趣味は、外を走ることと、本と、たまの映画と安旅行くらいしかないので、できたことなのかもしれないです (笑)。それから私は、ある事情があって、C調ハープ一本しか使わない (どの調の曲でも、Cハープでポジションを変えて演奏するということです。) ので、「最高の一本を買おう」 と踏み切れたということもあると思います。全調をそろえるのは、私にもやはり無理ですね (汗)。

  3. 韓信 said,

    Cハーモニカだけで全部のキーを吹くなんて、ハワード・リビーみたいですね。たしか、かれもピアニストですよね? 
    オーバーブロウ、ドロウを使うとCハーモニカ1本で3オクターブすべての音階がふけるんですよね?それに挑戦するなんて、本当に尊敬します。
    私は、まったく逆で、keyごとにハーモニカを変えるスタイルです。セカンドポジションでマイナースケールを吹けるようにチューニングしたハーモニカもよく使います。

    エアタイトなハーモニカは、やはりいいですよね。わたしは10ホールズでジャズを吹くのが好きなのですが、テーマメロディーのところをスカーという音で吹いてしまうと、イラッときます。
    スズキの木製モデルを何本か持っているのですが、エアタイトで感度が良いです。その点は良いのですが、カバー形状の口にあたるところがどうも自分には合わず、吹きずらいので、マリンバンドやスペシャル20のカバーを加工して付けたりしてます。

    • Yuki said,

      >韓信さん

      「イラッときます。」 というのが切実で、でも非常によくわかるので、つい笑ってしまいました。
      Suzuki の木製って、聞くところによると良いらしいですね。一度試してみたいです。これもけっこう高めですよね。Suzuki とSeydel は、品質の安定性に定評があるみたいですね。もちろん好みもあるでしょうけれど。カバーを変えたり、みなさん色々と工夫なさってるんですね。

      Cハープ一本というのは、私の場合、事情があってやむなくやっています。挑戦したといういうよりこれしか道がなかったんです。これが一番楽だったいうか・・・。このことは、近々書く予定でいます。
      私はテクニシャンというわけではなくて (リーヴィーとは程遠いです。)、オーバー・ブロウ / ドローも、まだ実際に演奏で使えるほど安定していません。なんとかタング・ブロックでできるように練習しています。でも、大抵のブルースの曲は、オーバー・ブロウ / ドローなしでも、なかなか良い演奏ができますよ。私の目標は、様々なポジションを使いつつ、トラディショナルなテイストを忘れずにブルージーな演奏をするということなんですが・・・まだまだですね。


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