2009/05/14

一本勝負!

Posted in ハープ日記 tagged @ 1:37 pm by Yuki

私は、どのキーの曲を演奏するにでも、C調のハープを使います。全てのキーを、ポジションを変えてCハープで吹くわけです。なぜそんな面倒なことをわざわざするのかという理由はきちんとあって、このブログでもずっと書こうと思いつつ、理解してもらえるように説明するのが骨だったのと、またちょっとしたコンプレックスのようなものもあり、今日まで書かずに来てしまいました。でも今日は、がんばって書いてみたいと思います。まあ身の上話のようなものでもあるので、お暇な方だけお読み下さい。

私には、絶対音感というものがあります。一時期、「絶対音感」 という本が話題になったのでご存じの方も多いかと思いますが、絶対音感とは、「基準となる他の音の助けを借りずに音の高さ (音高) を音名で把握することのできる感覚 (Wikipedia より引用)」 のことをいいます。つまり、音を聞いた際に、それが頭の中で音の名前となって聞こえる感覚です。C の音が鳴っているのを聞くと、本人が望む望まないに関わらず、頭の中では 「ドー」 と鳴って聞こえるのです。

聴音や耳コピ、暗譜をする時などにはとても役立つ絶対音感ですが、ブルース・ハーモニカを吹くにあたっては、これが障害となってしまいます。絶対音感を持つ人が移調楽器の演奏に困難を感じるというのはよくあることで、サックス・プレイヤーなんかでも、アルト (Eb) を吹く人がテナー (Bb) への持ち換えができないというようなことがあるようです。ハーモニカはもっとひどくて、12のキーがあるわけですから、絶対音感を持つ者にとてつもない混乱をもたらすこととなります。ちなみに私は、電子ピアノやキーボードによくついている 「移調ボタン」 も使えません。聞こえる音と弾いている鍵盤が違うので、混乱してしまうのです (尤も、ピアニストは移調ボタンなどに頼るべきではないと常々思っているので、これは大した問題ではないのですが)。もちろん、全ての絶対音感を持つ人がこのような困難を覚えるわけではなくて、相対音感や移動ド唱法が身についていれば、絶対音感があっても移調楽器をこなせるようです。

さて、それで肝心のハーモニカの話ですが、私はハーモニカの持ち替えが全くできません。ハーモニカは、同じ身体の使い方で同じ穴を吹いているのに、使うハープのキーによって違う音が出ますよね。まあ当たり前のことなのですが、これが私の頭と身体を混乱させ、演奏を不可能にするわけです。私が慣れ親しんでいるのはC調ハープで、このハープの全ての音と音名が、音を出す時の身体の動作と一体となって、私の頭の中にインプットされています。例えば、「3穴を、身体のこの場所を使ってこれくらいベンドすればBbの音がする」 というように、私の身体はプログラムされているのです。それで、例えばAのハープに持ち替ええたとしても、身体が勝手にBbの音を出そうとして、3穴をベンドしてしまったりするんですね。でももちろん、ハープのキーが違うから、Bbの音など出ない。それで、頭も身体もわけがわからなくなってしまうのです。3穴ベンドはあくまでひとつの例であって、全ての音がこのような感じで混乱をもたらすこととなります。

この大変さは絶対音感を持たない人には理解されにくくて、私が 「ハーモニカの持ち替えができない」 と言うと、多く場合、「へ?何言ってんの?」 という反応が返ってきます。実際に持ち替えて吹いて見せると、「なるほど、こりゃあひどい演奏だ。どうやら持ち換えができないというのは本当らしい。」 と納得はしてもらえるようですが、なぜハーモニカを持ち換えるとひどい演奏になるかということはなかなか理解できないようです。これは実際に経験することなしにはわかってもらえることではないのだと思います。

それで皆さん、「音名を考えないようにしろ」 とか、「相対音感を使うんだ」 とか、「音名ではなくてインターバル (音程) で音楽を捉えるといい」 などアドバイスを下さるわけですが、それができたら苦労はしないというか、そんなことはどんなにがんばってもできないのです。絶対音感を持ってしまった者にとって、音というのは言葉のようなものです。「ラ」 と聞こえるものを 「ド」 と聞くようにしろと言われることは、「りんご」 という言葉を聞いて、「みかん」 と聞こえるようにしろと言われているようなものなのです。実際に、音を聞いている時の絶対音感を持つ人の脳を見ると、絶対音感を持たない人が使わない脳の場所が使われていて、それは言葉を操る時に使われるのと同じ場所なのだそうです。

できる曲の調が限られているというのは、家でひとりで吹いている分にはかまいませんが、私はやはりジャムで他の人達と一緒に演奏したかったんですね。それにはやはり、どのキーにも適応できなければなりません。それで、なんとかこの障害を乗り越えようと、違うキーのハーモニカをとっかえひっかえ練習した時期が2年ほどありました。練習を重ねたら、なんとか慣れるのではないかと思ったのです。でもどうしてもだめで、これは時間の無駄だという結論に至りました。ハープを持ち替えるだけで簡単に移調ができてしまうのがブルース・ハープの利点ですが、それが裏目に出てしまうというのは、何とも皮肉なことです。

ジャムから帰ってくるたびに、自分の技量のなさに落ちこんで、「もうハーモニカやめる」 と言う私を、「せっかくここまで上手くなったのに、やめるなんて絶対にもったいない!」 と励ましてくれた夫には感謝しています。そんな悶々とした日々が続いたある時、夫が提案したのが、「Cハープ一本だけで、全ての調を吹いたらいいんじゃないか」 ということだったわけです。「有名なところではハワード・リーヴィーなんかがやってるし、他にもC一本でやっている人が何人かいる」 と言うのです。これはいけるかも、と私は思いました。私がハープを持ち替えると吹けなくなるのは、「どこにどの音があって、どのように身体を使ったらどの音が出る」 ということがわからなくなって混乱してしまうからであります。音名と身体の動きが一致する慣れたハープならば、ポジションの移動は楽にできるのです。そのポジションがちょっと増えたくらいと思えば、これはハープを持ち替えるよりもずっと楽な解決法かもしれないと思ったのです。

それから約2ヶ月間、ジャムに行かずに、ひたすら家で、Cハープのみを使って様々なポジションの練習をしました (以前 Woodshedding という記事を書いたことがありますが、あの頃です)。毎日、スケールの練習だけで2時間。プラス、バッキング・トラックを使って様々なキーの曲を練習しました。テクニック的にはやはり難しかったですが、各スケールや和音の構成音は本業がピアノ弾きということもあってがっちりと頭に入っているので、そういう面 (どのポジションのどのコードにどの音が合うかということ) においてはそれほど大変だとは感じませんでした。そして、「これが私にとって一番自然な方法だ」 と徐々に確信して行ったのです。

もちろん、一本のハープしか使わない演奏というのは、いささか問題もあります。各ポジションにはそれぞれのキャラクターがありますが、曲の雰囲気によってではなくて、曲のキーによってポジションを選ばざるを得ないというのが一番辛いです。更に、スタンダード・ナンバーを演る時に、定番のリフができないこともあるということです。これはもう、適当に曲に合うように作り上げるしかありません。それから、演奏がワンパターンになりがちだと思うのですが、これは夫によると、「普通の (ハープの持ち替えができる) プレイヤーだって毎回同じようなことばっかり繰り返すのがほとんどなのだから、そんなのは気にすることではない。」 とのことでした。確かにブルース・ハープの演奏って、ハープの持ち替えができるできないに関わらず、決まったパターンから抜け出すのが難しいですよね。そして、志の高いプレイヤーは常に、パターン化からの脱出を目指して自分を駆り立てているのだと思います。私も私なりのやり方で、ワンパターンにならない演奏を目指していけば良いのだと、少し気が楽になりました。

現在でも、曲のキーと雰囲気によってはあまり上手く行かないことも多くて、そういう時は、「ハーモニカの持ち替えさえできたら・・・」 とブルーになってしまいます。でも、そんなことを言っても始まらないし、「私にしかできないスタイルを築き上げることができるかもしれないじゃないか」 という気持ちで、前向きに取り組んでおります。当面の目標は、ダーティー・ノートや表情を持たせたベンド・ノートなどのブルージーな音を、各ポジションで有効に使うことにあります。

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