2009/11/25

David Barrett のニュー・サイト

Posted in ハーモニカ・プレイヤー tagged , , , , , , @ 11:59 am by Yuki

デヴィッド・バレットは、演奏だけではなくて 「教えること」 に力を注いでいるハーピストのひとりで、彼の素晴らしいオンライン・マガジンについては、このブログでも紹介したことがあります。
David Barrett - The Diatonic Harmonica’s Greatest Strength

そのバレットが、ブルース・ハーモニカを学ぶためのホームページを近々リリースするそうで、これがかなりエキサイティングなものになりそうだということが、ハープ界で話題になっていました。YouTube にこのサイトを紹介するビデオがアップされていますが、多くのハーピストのインタビューなどもあり、確かに興味深いです。

BluesHarmonica.com Preview

私はデニス・グルンリング (Dennis Gruenling) が出てきたところで失神しそうになったのですが (声と話し方がセクシーなのよね。)、他にもリック・エストリン (Rick Estrin), ジョー・フィリスコ (Joe Filisko), ジェイソン・リッチ (Jason Ricci), ゲイリー・プリミチ (Gary Primich), ゲイリー・スミス (Gary Smith) などなど、盛りだくさんです。ちなみに私はリック・エストリンのところでは (良い意味で) 大爆笑してしまいました。各インタビューは約1時間半の長さというのもうれしいです。

このサイト (bluesharmonica.com) がリリースされるのは12月20日。月ごとに購読料を払って、すべてのコンテンツにアクセス可能となるシステムだそうです。私なんかはデニスのインタビューを見るためだけにでも購読料払っちゃおうかなと思います。
楽しみですね。

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2009/08/10

ジョー・フィリスコに会いに行く ・ その2 (貧乏音楽家的生活)

Posted in ハープ日記 tagged , @ 10:59 am by Yuki

今日は、貧しいミュージシャンの生活の様子を少し書いてみたいと思います。音楽とは直接関係のない話なので何の役にも立ちませんが、同じような貧乏音楽家的生活を送っている方の慰みくらいにはなるかもしれません。

今回のジョーのコンサートは、ブリストルから車で3時間ほどの街で行われました。コンサートが終わるのは深夜なので、一泊して旅の疲れを癒し、次の日にゆっくりと帰るというのが理想だったのですが、この週末は、翌日もそのまた翌日も、遠方でのギグが入っていたのです。それで、楽器やアンプなどのエキップメントを車に積み込んで出発し、ジョーのコンサートの後は一泊して、その翌日は家に帰らずに、ジョーとランチをした後、まっすぐギグをする街へ行き、そこでまた一泊して、その翌日に別の街でもう一本ギグをして家に帰るというスケジュールを立てたのでした。

私のような貧乏音楽家は豪奢なホテルに泊まる余裕などもちろんなく、いつもは安めのホテルやB&Bを利用するのですが、今回滞在した2つの街はどちらも観光地で、しかも今はサマー・ホリデー・シーズン真っ盛り、その上週末だったということもあって、一番安いホテルでもかなりの値段だったのです。それでどうしたのかというと、久しぶりにバックパッカーを利用しました。バックパッカー、つまりホステルです。とは言っても個室がとれたので、ホステルとしてはかなり優雅(?)な滞在ではあったのですが。

baggies

さて、泊まる場所はかろうじて確保したとはいえ、次に問題となったのが、ギグの機材。イギリスでは (日本でもあることなのかもしれませんが。) 駐車している車から物が盗まれるということが決して珍しいことではないので、車の中には絶対に機材を残したくない。ということで、機材をホステルの部屋まで運ぶことにしました。そして、こういう時に限って、部屋は最上階と決まっているんですね。重いアンプやピアノを持って、6つある階段をぜええぜええ言いながら上ったですよ。全部で4往復はしました。荷物とギグの機材を運んだら、小さな部屋は既にいっぱい。ちなみに2日目は、ギグの会場の方が、親切にも機材を翌日まで預かってくれたので助かったのでした。感謝。

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ベッドと洗面台とデスクが置いてあるだけの小さな部屋。トイレとシャワーはもちろん共同。こういう宿に泊まる時に私の頭をよぎるのが、「シャワーのお湯が出るだろうか?」 ということなのですが、今回は、一つ目の宿はちょろちょろながらもきちんとお湯が出て、二つ目の宿は案の定、冷水シャワーでした。シーツも布団や枕のカバーもご自分でどうぞ、という感じで放置されています。でも私はこういう時、「洗濯されたシーツとカバーがあるだけまだまし」 と思ってしまうんですね。私は若い頃に、ヨーロッパ諸国をうんと過酷な旅をして回ったのです。見るからに洗濯されていないであろうシーツ、ワラジムシが歩いているベッド、水の流れないトイレ、電気が点かない廊下やトイレ、真冬なのに暖房の利かない部屋、朝までこうこうと電気をつけて大声で話す人達とのルーム・シェア、3週間パンとチーズだけという食事、暴風雨の中、びしょ濡れになりながらテントを張ってするキャンプ・・・そんなのに比べたら、今回の洗濯済みのシーツと洗面台付き個室なんて上等です。旅行に限らず、「あれに比べたらまだまし」 と思うような経験が私の人生にはいくつかあって、ひどい経験をするというのも時には役に立つものだと思います。

長時間のドライブ、ギグ、機材運び、スプリングが身体に当たるベッドと騒音による寝不足のおかげで、家に帰りついた時はどろどろに疲れておりました。貧乏音楽家はこうしてお金を節約して、ライブのチケットやCDやDVD、1本3万円弱するジョー・スパイアーズのカスタム・ハーモニカを買うお金を貯めたり、フェスティバルやワークショップに参加する費用を貯めたりしているのであります。

関連記事:
ジョー・フィリスコに会いに行く ・ その1

2009/08/06

アンサンブルの楽しみ ・ その2 (ブルース・ミュージシャンとしての技量)

Posted in ハープ日記, ハーモニカ・プレイヤー tagged , , @ 11:46 am by Yuki

先日のジョー・フィリスコのコンサートでは、サポート・バンドの演奏が2つありました。どちらも地元の若いバンドです。流れとしては、ウィル・ワイルドというハーモニカ・プレイヤーが率いるバンドがまず演奏して、次にジョーが1時間ほどアコースティック・ソロの演奏をし、その後、もうひとつのバンドの演奏があり、最後にこのバンドにジョーとウィル・ワイルドが加わって、セッションで締めくくるというものでした。

ジョーに会うために開場前に中に入っていた私は、サウンドチェックの様子を見る機会があって、実はどちらのバンドにもあまり期待していなかったのです。でも本番では、このウィル君という若きハープ・プレイヤーのバンドは、とても良い演奏をしていました。ヴィブラートの音や、あまりにも露骨にパッカーを押し出したアプローチが私の好みではないのですが、このような演奏が好きだという人がいるのは理解できるし、そういった評価に値するプレイヤーだと思います。このバンドは普段はエレクトリック・ギターを使うらしいですが、今回はアコースティック・ギターでの演奏でした。おそらくジョーのサポートであるということを考慮しての選択で、そういうセンスの良さや柔軟性にも感心します。そして何より私の気に入ったのが、ウィル君がきちんと他のミュージシャンとのセッションができるということです。サウンドチェックを聞いていた際は、「ハーモニカが一人よがりに吹きまくるマスターベーション的演奏になるのではないか」 という予感がしたのですが、本番ではギターがソロを取る場面ではすっと引いて上手くバックアップしていたし、最後のセッションでも、ジョーとかぶらないように音量をコントロールしたり、ハーモナイズしたり、引くところでは引いて出るところではしっかり出るという演奏をしていました。彼はまだ20歳だそうで、先が楽しみです。
Will “Harmonica” Wilde (myspace)

w_wilde

ウィル君のバンドと正反対だったのが、もうひとつのバンド。音楽はもちろん、ファッション、歩き方、話し方、演奏中の身体の動きから、ローリング・ストーンズ (特にミック・ジャガー) の影響を受けているのが一目瞭然。ストーンズが悪いというのではもちろんないですが、音楽よりファッションや身のこなしが先走っているというその感じと、サウンドチェックの音から、「この人達、ブルースのセッションができるんだろうか」 という嫌な予感が頭をよぎりました。そして本番、予感的中。バンドの演奏自体は、私の好みでは全くないにしろ、まあこういうのもありかな、とは思いましたが、ジョーが加わってのセッションは、てんで話になりませんでした。ジョーがどんなソロを吹いていようが全くおかまいなしで、勝手に弾きまくって勝手に盛り上がって行くバンド。ジョーの音など聴いていないのが、見ていて明らかです。ウィル君のバンドを最後にしてセッションをした方が絶対に良かったのに、と残念に思いました。

ブルース・ミュージシャンとしての技量が本当に問われるのは、セッションにおいてだと思います。ブルースというランゲージを使ってコミュニケーションを取ることができなければ、それはもはやブルースではないと思うのです。その良い例 (悪い例と言った方がいいのか。) が、リトル・ウォルターがロックの殿堂入りをした時のセレモニーでの演奏。ハーモニカがジェームス・コットンというのはこの晴れ舞台にふさわしい適役だと思いますが、彼以外のバンドの演奏が、どう見てもブルースを知っている演奏ではないのです。”Juke” はコットンとバンドがばらばら。ブルースなんて12小節の枠を繰り返し演奏してればいいんだろう、というバンドの感じが見え見えで、コットンのソロに反応することなどもちろんありません。ブルースを演奏し慣れた人なら、(たとえリハーサルなしのセッションだったとしても) ここでコットンがやりたいことは実に明快なはずですが、このバンドにはコットンの意思が全く伝わっていません。コットンが、「おい、合わせろよ」 という感じでバンドの方をちらちらと何度か見ていますが、それも見事に無視。そんなだから、最初から最後までコットンとバンドが4小節ずれていても気づかないという事態になるのです (終盤でコットンがかろうじて合わせていますが)。そして、”My Babe” はギターが張り切りまくり、弾きまくりで、もううるさいったらないです。

リトル・ウォルターがロックの殿堂入りしたのは (おそらく) 喜ぶべきことですが、このセレモニーはひどかった。冒頭のエリック・クラプトンのリトル・ウォルターについての見解も全く的はずれだし (”crude” という言葉は他のブルース・プレイヤーに当てはまることはあっても、リトル・ウォルターには当てはまらない、というか、むしろその全く逆だと思います)。リトル・ウォルターもジェームス・コットンもなんだか気の毒ですね。このクリップを見る度に、頭が痛くなる私です。
Little Walter’s induction into the R&R Hall of Fame

関連記事:
アンサンブルの楽しみ ・ その1

2009/08/03

ジョー・フィリスコに会いに行く ・ その1

Posted in ハープ日記, ハーモニカ・プレイヤー tagged @ 5:08 pm by Yuki

週末、ジョー・フィリスコ (Joe Filisko) のコンサートがあったので、ちょっと遠出をして会いに行ってまいりました。ジョーは3年前にブリストルのハーモニカ・フェスティバルに来た時に、一度お会いしています。うちの夫はこの時、ジョーの演奏にひどく心を動かされ、それ以来、心の師として仰いでおります。ジョーも夫の演奏を気に入ってくれたので、会う回数は少ないとはいえ連絡を保ち続け、今回も事前に電話で話をして、コンサートの前と翌日に食事でもしようと言っていただいたのでした。
ジョーの話を聞いていると、「この人は本当に、ハーモニカという楽器を心から愛して、理解しているんだなあ」 としみじみと感じます。ハーモニカに限らず、ブルース全体の歴史についてのジョーの知識は膨大で、話を聞いているだけでとても勉強になりました。私とはちょっと考え方が違うな、と賛同しかねる点も少しありましたが、一意見としては筋が通った尤もな考えだとも思いました (これについてはジョー自身も、人によって意見が分かれるところだろうと言っていました)。

実は私はブリストルのフェスティバルでは、ギグが入っていたため、ジョーのコンサートは見逃してしまったのです。ワークショップではその演奏を聞いたものの、きちんとしたコンサートは今回が初めてで、(夫の太鼓判もあり) とても楽しみにしていました。
どきどきわくわくしながらの一曲目。なんと、「この曲は、ブリストルから来てくれたジョンとユキのために演奏します。」 と言ってくれたのでした。うおーん (泣)。そんなこと言われたら泣いてしまう。しかも使ったのは夫が贈ったハーモニカで、演奏後に、「これは、ジョンがプレゼントしてくれた素晴らしいハーモニカです。」 とまで言っていただいて、更に感動。今年の春から本格的にカスタム・ハーモニカとリペアの仕事を始めた夫は、カスタム・ハープの本家本元であるジョーの意見が聞けたらと、この日のためにハーモニカを一本カスタマイズしてプレゼントしたのです。この贈り物はとても喜んでもらえ、気に入ってもらえて、コンサートでは数曲の演奏に使っていただきました。よかったよかった。

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ジョーのアコースティックの演奏は、ハーモニカという楽器と、その奏法を発展させて来た奏者達への愛情と尊敬と謙虚さに溢れています。ものすごいテクニックを持った人ですが、彼の演奏を聞いているとそういうことはあまり気に留まらなくて、ただただ音楽の素晴らしさを体感するのみです。聞いていて鳥肌が立ってしまう。特にトレインの曲はすごかったです。トレイン・サウンドを使った曲は多くの人が演奏していますが、こんなに素晴らしい演奏を聞いたのは初めてでした。
コンサートの終盤ではバンドとのセッションがあり、アンプリファイドの音も聞けてとても幸せでした。この人は、マイクを握ると豹変するという印象があります。アコースティックの演奏とはうって変わって、ダーティーでダークな音で攻めるジョー。はああ、かっこいい。セッションでは地元のハープ・プレイヤーが加わって、彼がアンプリファイド、ジョーがアコースティックで演奏していたのですが、最後にマイクを借りて、ジョーもアンプリファイドで演奏することになったのです。ジョーがマイクを持った瞬間、「ジョーがアンプを使って演奏する!!!」 と興奮してしまった私であります。後で夫に、「ジョー・フィリスコがアンプリファイドで演奏するからと興奮する妻を持つ人は、たぶんあまりいないと思う。」 と言われてしまったのでした。それは確かにそうかもしれない。

近々リリースされる予定のジョーのニュー・アルバムのコピーを一足早くいただいたこともあり (ジョーから夫へのプレゼントでした。)、しばらくはジョー・フィリスコの世界にはまりそうです。

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写真はいただいたTシャツ。私にはちょっと大きいのですが、とってもうれしい。大切にします。

関連記事:
ジョー・フィリスコに会いに行く ・ その2 (貧乏音楽家的生活)

2009/05/11

Joe Filisko & Eric Noden

Posted in ハーモニカ・プレイヤー tagged @ 12:52 pm by Yuki

ここ数日、カスタム・ハーモニカの話が続いたからというわけではないのですが、今日はジョー・フィリスコ (Joe Filisko) 氏の演奏を紹介します。ちょっと前にダーティ (dirty) なアンプリファイドの演奏を紹介しましたが、今日は打って変わって、エリック・ノーデン (Eric Noden) とのアコースティック・デュオです。こういう演奏をしたら、彼の右に出る人はいないと思います。聞いていると、何とも幸せな気持ちになってしまう。トレイン・リズムってブルースハープの基礎のひとつですけど、本当に上手く吹くのは実はとても難しいんですよね。ジョーはとてつもないテクニックを持つ人ですが、彼のハープは、音楽として奏でられた時に、あまりそういうことを感じさせない力があると思います。なんというか、ただただ、「ハーモニカっていいなあ。音楽っていいなあ。」 と思うのです。

Strobe Sessions #7: Joe Filisko & Eric Noden

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過去に紹介したジョーの演奏はこちらにあります。

Joe Filisko (アンプリファイド)
Joe Filisko

2009/05/07

Joe Spiers Custom Harmonica - その2 ・ カスタム・ハーモニカというもの

Posted in ハーモニカ tagged , , , @ 11:29 pm by Yuki

前回からもう少し話を広げて、カスタム・ハーモニカというものについて書いてみたいと思います。先日の記事を読んでいない方は、こちらからどうぞ。
Joe Spiers Custom Harmonica - その1

なぜカスタム・ハーモニカというものが存在するのかという疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。そもそも、最近のストック・ハープ (手直しされていない、店で普通に買うハープ) は、多かれ少なかれ、どこかに欠陥があるのが普通なんですね。例えば、私が馴染みのあるストック・ハープはマリンバンド・デラックスですが、買って箱から出したばかりなのに、チューニングが狂っていたりとか、すかすかして感度の悪いホールがあったりとか、キーキー鳴るリードがあったりとか、何かと欠陥があるのが普通です。以前、スティーヴ・ベイカーと話した際に、ホーナーの製品の質は一時期は低迷したが、最近はまた質が上がってきて、現在は60年代以来の質の良さだと言っていました。確かに最近のデラックスは、「おっ」 というくらい素晴らしいものもありますが、それでも全ての穴がバランスがとれて良く鳴るストック・ハープに当たるのは、かなりラッキーなことだと思います。マリンバンドのニューモデルについての記事でも書いた通り (>Marine Band Crossover)、スティーヴ・ベイカーは、ホーナーの製品開発に深く関わっている人で、彼自身、素晴らしいプレイヤーでもあります。自分はストック・ハープで十分で、カスタム・ハープは必要ないと言っているスティーヴですが、そんな彼でも、自分の演奏に合わせてリードを調整したり、チューニングをしたりという作業は自身で行っているそうです。

ということを踏まえて湧いてくるのが、「それではなぜ、工場での品質管理をもっと厳重にして、欠陥のないハーモニカを作らないんだ!」 という疑問です。これは、「ブルース・ハープは低価格の楽器である」 という前提があるためです。消費者が納得する安い値段で、一枚一枚のリードの並びやカーブの具合、リードとリードプレートの隙間などをチェックして調整するのは、到底無理な話なのです。そういうわけで、全てのリードがしっかりと調整されたハーモニカが欲しいと思えば、自分で手直しするか、それなりのお金を払って職人にその仕事をしてもらうしかないわけです。

しかし、カスタマイズと一言で言ってもその仕事の度合いは様々で、腕の良いカスタマイザーの仕事は、修理をしたり調整したりする以上のものであります。彼らの目指すところは、可能な限りエアタイト (高い気密性) に加工して感度を最大限に高め、可能な限りダイナミックス (音量の強弱の幅) を広げ、奏者の希望によってはオーバー・ブロウ / ドローがスムーズにできるセッティングも行うなど、言わば 「スーパー・ハープ」 なのです。しかし、いくらスーパー・ハープ (というのは私が勝手に名付けたのですが。) とは言えど、テクニックが無ければもちろん使いこなすことはできません。でも、プロのプレイヤーやプロ並の演奏を目指す人にとっては、無駄な労力を使ったり、楽器に心を煩わされることなしに、自分の目指す音楽を作り出すことのみに集中できる、ありがたい楽器なのであります。

このスーパー・ハープの開拓者が、このブログでも良く登場するジョー・フィリスコ氏なわけですが、彼は始めは、「戦前の物にできるだけ近い、良質のハーモニカを作ろう」 ということで、カスタム・ワークを始めたらしいです。リトル・ウォルターやビッグ・ウォルターなどの、古き良きブルースの時代のハーモニカは今とは比べ物にならないくらい良質だったそうですが、それ以前の戦前のものはもっと質が良かったそうですね。現代のカスタム・ハーモニカはもともとそういう目的から始まったのですが、それがどんどん進化して、現在のスーパー・ハープに至るわけです。

私が始めて吹いたトップ・クラスのカスタム・ハープは、数年前に夫が買ったブラッド・ハリソンのハープでした。この時の衝撃は、未だにはっきりと覚えています。吹いた瞬間、「詐欺だ!」 と思いました。驚くほどエアタイトで、ベンドなんかもするするっと抵抗なくできてしまう。それまで吹いてきたストック・ハープとは全然違うので、同じハーモニカという楽器だとは信じられませんでした。それで、「キム・ウィルソンもデニス・グルンリングも、ゲイリー・プリミチも、ジェリー・ポートノイも、リック・エストリンも、みんなこんなハープ使ってるの?そりゃー上手いはずだよ!詐欺だ!」 と叫んだわけです (実際には、彼らのハープを作っているのは、ハリソンではなくてジョー・フィリスコやリチャード・スレイなのですが、同じトップクラスのカスタム・ハーモニカということで)。まあこれはもちろん冗談で言ったのですが、それほどの衝撃だったということです。

今回私が買ったジョー・スパイアーズのハープは、ハリソンのに比べて、ほんの少し抵抗が強いです。これは感度が悪いという意味ではなくて、例えば車でいうと、ハリソンのはちょっとアクセルを踏んだだけで 「ぎゅん」 と進みますが、スパイアーズのは少し踏み込んで 「ぐわん」 と前に行く感じ。どちらも素晴らしい性能の車であります。夫が愛用しているリチャード・スレイのハープは、どちらかというとハリソンのに近いですが、ちょっと落ち着いた感じがします。もうこれは、吹く人の好みでしかないですね。

先日も書いた通り、時間のかかる作業なので、トップ・カスタマイザー達は随時注文を受け付けているわけではないことが多いです。一定期間内で仕上げられる量の注文だけ受け付けて、その目途がつくまでは次の注文は受け付けないという人が多いようです。それでも、その間、以前に作ったハーモニカのリペアやチューニングなどの依頼が入ったりもするので、なかなか予定通りには行かないみたいですね。夫がスレイのハーモニカ4本を買った際は、仕上がりまでに6ヶ月程かかると言われていたのですが、延びに延びて、結局9ヶ月くらいかかりました。最近ハリソンのハープを買った友人も、当初の予定より2ヶ月ほど長くかかったと言っていました。

そんなわけで、カスタマイズは手作業のため時間がかかりますし、高度なスキルと経験が必要です。そして完成したハープの出来栄えは素晴らしいものなので、高い値段がつくわけです。スパイアーズのハープはハープのモデルやカスタマイズの度合いによって値段は違いますが、私が今回買ったのは、送料込みで305ドル (約29600円) のもの。他のトップ・カスタマイザー達も色々ですが、150ドル (約14700円) から 180ドル (約17600円) くらいが相場のようです。確かにストック・ハープに比べると高いですが、受け取った時点で製品に明らかな問題があれば無料で調整してくれるはずですし (私が買ったスパイアーズのハープは2年間の保証が付いています。)、その後も有料ですが修理や調整やチューニングをしてもらえるので、買い換えの必要はないのです。欠陥があることが普通のストック・ハープと違って、カスタム・ハープはその品質を信頼することができるので、少々高いお金を出してもカスタム・ハープを選ぶという人がこちら (欧米) では多いです。
もちろん、ストック・ハープを使っているプロもいますが、そういう人でも前述のスティーヴ・ベイカーのように自分で手直ししているか、又は欠陥の少ないものを選ぶなどしている場合がほとんどだと思います。

うちの夫も、以前から自分のハープの調整をしていたのですが、最近カスタマイザーとしての仕事を本格的にはじめて、これがなかなかの好評であります。先日も、スレイのハープを愛用している友人から、「アメリカのクラフツマンに負けないくらいの良い仕事だ」 と言われていました。現在は集まった注文をこなすのに手一杯な様ですが、時間ができたらウェブサイトも作る予定だそうなので、その際はこちらで紹介したいと思います。

2009/04/08

Joe Filisko (アンプリファイド)

Posted in ハーモニカ・プレイヤー tagged @ 11:45 pm by Yuki

最近、更新が遅れがちなこのブログ。こう見えてもなかなか忙しくて、あくせくしております。特に今日はストレスになることが多くて、どっぷりと疲れました。こんな日は、かっこいい音楽を紹介して元気を出すに限ります。うちの夫が師と仰ぐ、ジョー・フィリスコ (Joe Filsko) の演奏です。

joe_filisko

ジョーのアコースティックの演奏は以前紹介しましたが (>Joe Filisko)、今日はアンプリファイドの演奏です。

Joe Filisko – Pretty Thing

いやはや、かっこいい。アコースティックの演奏とか、戦前ハープの演奏なんかをすると、心にじわ~っと染みる彼の演奏ですが、こういうダーティーなアンプリファイドも吹くんですよね。恐るべしジョー・フィリスコ氏であります。

2008/09/09

カスタム・ハーモニカ

Posted in ハーモニカ tagged , , , @ 1:36 am by Yuki

より良い演奏を無駄な労力なしでできるように手が加えられたハーモニカを、カスタム・ハーモニカといいます。アメリカやヨーロッパでは、プロのハーピストやプロ並の演奏をする人 (または目指す人) は、カスタマイズされたハーモニカを使っていることが多いです (手直しされていないハーモニカをそのまま使う人ももちろんいます)。私は日本の事情はよくわからないのですが、吉田ユーシンさんなんかがカスタマイズをやっているみたいですね。

「どうしてカスタマイズなんかが必要なんだ。ソニー・ボーイ・ウィリアムソン (両者) やリトル・ウォルター、ビッグ・ウォルターなどの往年のプレイヤーは、みんな Marine Band をそのまま使っていたじゃないか」 という疑問が湧いてくるわけですが、その頃の Marine Band は近年の物とは比べ物にならないくらい質が良かったのです。大量生産されるようになったのと、古い機械を長年変えずに使い続けて来たのとで、近年の Marine Band は質がぐっと下がってしまったらしいです。しかし、Hohner で働く知人によると、数年前に機械に入れ替えをしたので、最近はまた質が上がって、60年代に次ぐ質の良さに戻ったのだということでした。

もともと市販のハーモニカというのはどれも少しずつ癖があって、完璧な物は稀なのです。物によって、「2穴が鳴りにくいな」 とか、「3穴がすかすかするな」 とか、難点があるのが当たり前というくらいです。特に Marine Band は当たりはずれが多い楽器だと言われます。Marine Band をそのまま使っているというプロの人もいますが、そういう人でも、「はずれ」 の Marine Band は使わないはずだと思います。それから、オーバー・ブロウなどを演奏で使う人は、それがしやすいように手を加えたハーモニカを好む様ですね。

さて、カスタム・ハーモニカの職人として有名なのが、以前紹介したジョー・フィリスコ (>Joe Filisco)。キム・ウィルソン (Kim Wilson)、デニス・グルンリング (>Dennis Gruenling)、ジェリー・ポートノイ (>Jerry Portnoy)、ハワード・リーヴィー (Howard Levey) など、トップ・プレイヤー達のハーモニカをカスタマイズしている人です。ジョー自身もすばらしい演奏をするプレイヤーであります。

他には、リチャード・スレイ (Richard Sleigh)、ジェームス・ゴードン (James Gordon)、ブラッド・ハリスン (Brad Harrison)、ジョー・スパイアーズ (Joe Spiers) などが有名どころでしょうか。前述のジョー・フィリスコをはじめ、この方達はもう、魔法のような仕事をすることで名が知られています。各プレイヤーのニーズに合わせて、膨大な時間をかけてハーモニカを仕上げます (当然値段もお高いです)。私は夫が持っているブラッド・ハリスンのハープをちょっと試し吹きしたことがありますが、これは大きな衝撃でした。驚くほど気密性が高くて感度が良く、同じハーモニカであるとは信じられないほどでした。でも逆に、感度の良いハープというのは、テクニックがしっかりしていないと使いこなすのはむずかしいなあ、と思ったのも事実です。

カスタム・ハーモニカと普通のハーモニカを吹き比べする、というのを、我らがジェイソン・リッチ (Jason Ricci) がやっております。
Custom Harmonica Vs. Out of Box Harmonica 007

彼が吹き比べをしているのは次の3つのハーモニカ。

1.普通の Marine Band
2.ジョー・スピアーズがカスタマイズした戦前 (1920年代) の Marine Band
3.ジェイソン自身がカスタマイズした Golden Melody

聞き比べてみると、確かに、なめらかで気密性の高いカスタム・ハープに比べて、普通の Marine Band は leaky (空気が漏れやすい) ですね。音量もカスタム・ハープに比べると小さいです。ジェイソンは 「自分は、普通の Marine Band をそのままギグで使うことは絶対にない」 と言っていますね。それでも彼が吹くと、普通の Marine Band もさすがにいい音がしていると思います。

ついでに、ジェイソンがカスタム・ハープを使ってオーバー・ブロウをして見せる映像というのもあります。
Custom Harmonicas Part 2/bending overblows 008

2008/07/08

Joe Filisko

Posted in ハーモニカ・プレイヤー tagged , , , @ 11:05 pm by Yuki

ヨーロッパのハープ・プレイヤー達と、「モダン・ハープ・プレイヤーの中で、一番好きな人は?」 という話をするとき、必ずと言っていいほど耳にするのが、ジョー・フィリスコ (Joe Filisko) という名前である。「ジョーは今までに出逢った、最高の教師だ」 と言う人や、ジョーは俺の harmonica god だ」と言う人が、必ず一人はいる。日本ではあまり名が知られていないが、アメリカやヨーロッパで現在のハーモニカ事情を追っている人なら、誰でも知っている名前である。

ジョー・フィリスコといえば、カスタム・ハーモニカを作るハーモニカ職人として有名である。彼の作るハーモニカは 「ハーモニカのストラディバリウス」 と言われ、キム・ウィルソン (Kim Wilson) やデニス・グルンリング (>Dennis Gruenling)、ジェリー・ポートノイ (Jerry Portnoy)、ハワード・リーヴィー (Howard Levey)、故ゲイリー・プリミッチ (Gary Primich)、など、現在活躍するトップ・プレイヤー達のハープは皆、ジョーがカスタマイズしている。ハーモニカ・カスタマイザーとして、この人を上回る者がいないことは、誰もが認める事実である。しかし、「クラフツマンとしてのジョー・フィリスコ」 は、あくまで彼の一面でしかない。教師として、また、プレイヤーとしても一流で、その人柄の良さも手伝って、人々から親しまれ、尊敬されている。

ジョー・フィリスコの演奏が人々の心をつかむ理由は、それが、ハーモニカという楽器への愛情と敬意に満ちているからだろうと思う。ハーピストに限らず、ミュージシャンというのは、概して演奏にエゴを押し出すことが多い。もともと音楽というものは自己表現の手段なのであるから、これはまあ当然のことなのだが、ジョーの場合は少し違う。彼の演奏において、一番に来るものはエゴではなくて、ハーモニカである。彼は、ハーモニカという楽器を知り尽くしていて、この楽器の持つ美点を最大限に引き出すことに勤めているように見える。しかし、そうすることによって、奏でられる音楽はジョー・フィリスコにしか作り出せない音楽となるのである。

キム・ウィルソン (Kim Wilson) やデニス・グルンリング (Dennis Gruenling) など、モダン・ハーピストで好きな人達はたくさんいるけれど、ジョーほどソウルフルな演奏をする人はいないような気がする。

映像は、2007年にドイツで行われたハーモニカ・フェスティバルでのコンサートの模様。ギターはエリック・ノーデン (Eric Norden)。ハーモニカという楽器が、更には、音楽というものがこの世に存在することを感謝したくなるような演奏である。

私は2年前に、ブリストルで行われたハーモニカ・フェスティバルでジョーにお会いしたのだが、彼の演奏する音楽そのもののような人柄であった。

2008/07/05

上達の秘訣

Posted in ハープ日記 tagged @ 1:38 pm by Yuki

昨晩はバンドのギグがあった。うちのバンドのハーピストは、とても良いハープを吹く。その厚い(熱い)音色と、心の底から湧き出るような演奏は、巷では定評があるし、あのジョー・フィリスコ(Joe Filisko)のお墨付きでもある。夫であるというひいき目なしでも、すばらしいプレーヤーである。問題があるとしたら、謙虚すぎるところと、野心がなさすぎるところであろう。

彼はいつも良い演奏をするのだが、昨晩のギグはのりにのっていた。前半が終わった後の休憩時間に、自身もハーピストだと言う男がやって来て、色々と夫に質問をし始めた。私はパブが出してくれたブリー・チーズとクランベリー・ソースの美味なサンドウィッチをほおばりながら聞き耳を立てていたのだが、この男、どうも人の話を聞かない。色々と質問をしつつも、夫がそれに答えると、プライドが邪魔をして聞き流してしまうのである。例えば、アンプやマイクの話をしていて、「いい音してるけど、その音色は、アンプなの?マイクなの?」と聞く男。「アンプとマイクの組み合わせだよ」と答える夫。すると男は、「そんなの知ってるよ」と言ってしまうのである。「じゃあなぜ聞く?」と心の中でつっこみを入れる私。

その男は今年、グラストンベリー・フェスティバル(Glastonbury Festival)で演奏したことをものすごく誇りにしていて、「グラストンベリーで演奏したこの俺様が、こんな若造ごときにアドバイスされてたまるか」という思いがあるようである。確かにグラストンベリー・フェスティバルはイギリス最大のミュージック・フェスティバルなのだが、何しろ大規模なので、演奏するミュージシャンは、有名な人から無名な人までピンキリである。「グラストンベリーくらい私だって演奏したことあるよ」と思いながら、サンドウィッチを味わう私であった。

私は、男の態度から、「自慢する割には大したことないんだろうな」と思っていたのだが、休憩中に夫のハーモニカとアンプとマイクを試し吹きした彼の演奏は、案の定褒められたものではなかった。音色は硬くて薄っぺらで、ベンドも正しい場所を使わずにするので、耳障りな音色である。

後で私のところにやって来て、「君のとこのハーピスト、いい音してるね。あれはマイクを持つハンド・テクニックだね。しっかりと塞いで、ディストーションを起しているんだ」と言う男。どうも、夫の音色が良いのは、マイクやアンプなどの機材とハンド・テクニックのせいだと思っているらしい。そこで私は、「ハンド・テクニックももちろん大切だけど、もっと大切なのはマイクとアンプなしで吹く、生の音色だよ。アンプはその人の待っている音色を拡大するんだよ。良い音で吹けば良い音が出るし、悪い音で吹いたらそれが拡大されて鳴るだけだよ。興味があるんだったら、彼はレッスンもしているけど、、、」と言った。

最後の「レッスン」という言葉が気に入らなかったらしく、男は憤慨した様子で、「レッスン?まさか!俺はグラストンベリーで演奏したんだ!」と例のグラストンベリー話を持ち出すのであった(彼の口からは、もう20回くらいグラストンベリーという言葉を聞いている)。こういう人には、何を言っても無駄である。私は大人なので、「でもあなたは基礎がぜんぜんできてないよね」などということは言わずに、「ああ、そうですか」という感じで受け流したのであった。

音楽の上達のために必要なのは、「聞く耳」である。良いものと悪いものを聞き分ける耳と、上手い人のアドバイスを聞き入れる耳なしには、どこへもたどり着けない。

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